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高松高等裁判所 昭和41年(ネ)87号 判決 1966年12月15日

控訴人

指定代理人

叶和夫

外一名

参加人

辻本富一

主文

控訴人は、参加人に対し、金六五万円およびこれに対する昭和三六年二月一四日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

参加により生じた訴訟費用は、控訴人の負担とする。

事実

参加代理人は、主文と同旨の判決を求め、控訴代理人は、「参加人の請求を棄却する。」との判決を求めた。

参加代理人および控訴代理人の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否《省略》

理由

一本件船舶は、元訴外柴原登波の所有であつたこと、訴外辻本安太郎は、所定の免許を受けないで、沖縄に赴いて密貿易をしようと企て、右柴原から本件船舶を傭船し、その準備を完了したところ、昭和二六年七月五日検挙され、次いで関税法違反被告事件として起訴され、昭和二七年三月一八日津地方裁判所伊勢支部において懲役一年六月および罰金五万円、本件船舶等を没収する旨の判決を受け、控訴、上告の結果、昭和三三年四月一日最高裁判所において破棄差戻しの判決があつたこと、差戻後の名古屋高等裁判所において、同年一〇月一四日右被告事件につき判決の言渡があり、右判決においては本件船舶の没収はなされず、該判決は昭和三四年四月六日右辻本の上告取下により確定したこと(右関税法違反事件には他に共犯者があり、これらの者に対する判決も、本件船舶につき没収の言渡がないままその頃までに確定したこと)、本件船舶については、昭和二六年七月二〇日津地方検察庁宇治山田支部検察官が、右関税法違反被疑事件につきこれを押収したものであること、昭和二八年一一月二五日本件船舶につき換価処分がなされ、代金三五万円で公売されたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

二ところで本件船舶の保管義務違背による控訴人の賠償責任についての当裁判所の事実の認定、法律判断は、原判決理由四に記載するところと同一であるから、その記載をここに引用する。

三そこで控訴人の時効完成の抗弁につき按ずるに、国家賠償法第四条により公務員の不法行為による損害賠償請求権の消滅時効にも適用される民法第七二四条には、不法行為における損害賠償請求権の消滅時効は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知つた時から三年間の時効期間に服する旨規定されているところ、本件のように、没収すべきものとして押収された物件については、たとえ、押収中、検察官の不法行為によりその価格が減少したとしても、後日裁判によりこれが没収されるときは、押収は、その目的を達成し、押収物件の所有者は、その所有権そのものを失うに至る結果、価格の減少(損害)というようなことはもはや問題となし得ないわけであつて、押収物件につき没収の言渡のないことの裁判が確定するまでは、押収物件の所有者にとつて、検察官の不法行為によつて損害を蒙つたことが終局的に確定されず、右裁判の確定により初めて、これが損害として認識されるに至るのであるから、前記法条にいう「損害を知る」時期は、単に損害発生(価格の減少)の事実だけでなく、押収物件につき没収の言渡のないままの裁判が確定したことをも知つた時と解するのが相当である。そこで、本件につきこれをみるに、本件船舶は、前記一に記載したように、昭和二六年七月二〇日津地方検察庁宇治山田支部検察官が、訴外辻本安太郎らに対する関税法違反被疑事件につき、その供用物件として押収したものであるところ、右事件はその後起訴され、第一審、控訴審、上告審の各審理判決を経たのち、結局最後に、差戻後の名古屋高等裁判所が、昭和三三年一〇月一四日本件船舶につき没収の言渡のないままの判決を言渡し、該判決は昭和三四年四月六日右辻本の上告取下により確定したのであるから、たとえ、控訴人主張のように、訴外柴原登波が昭和二八年一〇月二二日頃には本件船舶の破損の事実を知つていたとしても、これを以て直ちに、その日から本件損害賠償請求権の消滅時効期間が進行するものというべきものではない。

ところで、<証拠>によると、訴外柴原登波は、昭和三三年九月二〇日脱退被控訴人に対し、自己の控訴人に対する本件損害賠償請求権(その性質については前記のとおり)を含み、本件船舶に関して生じ、または生ずべき一切の権利を包括的に譲渡し、同年一〇月四日付書面を以て控訴人にその旨通知し、その頃該通知が控訴人に到達したことが認められ、また、<証拠>を綜合すると、脱退被控訴人は、昭和三四年九月一九日控訴人から本件船舶の換価代金三五万円の還付を受け、その頃(早くも同月上旬)初めて、差戻後の名古屋高等裁判所の前記判決が確定したことを知つたことが窺われ、右各認定に反する証拠はない。いずれにしても、昭和三四年八月以前には、訴外柴原登波または脱退被控訴人において右判決の確定したことを知つていたものと認めるに足りる証拠はなく、むしろ、右判決は第三者である訴外辻本安太郎の上告取下により確定したのであるから、脱退被控訴人らは、右判決の確定(昭和三四年四月六日確定)後暫くの間は、そのことを知らなかつたものと想像するに難くない。そうすると、本件損害賠償請求権の消滅時効期間は昭和三五年四月上旬から進行を始めたものというべきであつて、右の日から優に三年以内である昭和三七年四月一七日の原審第九回口頭弁論期日において脱退被控訴人より本件損害賠償請求の訴が予備的に追加されたことは、記録上明らかであるから、控訴人の時効の抗弁は採用することができない。

四次に、控訴人の過失相殺の抗弁につき按ずるに、原審証人柴原多賀夫、同柴原登波の各証言によると、訴外柴原登波は、船舶の保管方法を知つており、かつ、本件船舶に対し津地方検察庁宇治山田支察官が十分な保管措置を講じていないことを知つていた事実が窺われるが、本件船舶は右検察官により押収されていたものであつて、控訴人の全立証によつても、未だ、本件船舶の損傷荒廃を防止するにつき右訴外人に過失があつたものと認めることができず、かえつて、右各証言によると、右訴外人は、当時しばしば、係の検察官に対し本件船舶のため適切な保管措置を講ずるよう申入れていたことが認められるから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の右抗弁は失当であることが明らかである。

五そうすると、控訴人は、脱退被控訴人に対し、前記二(原判決理由引用)記載の損害金六五万円およびこれに対する不法行為の日の後であること明らかな昭和三六年二月一四日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をなすべき義務があるものというべきところ、参加人が昭和四〇年七月二〇日脱退被控訴人から右権利の譲渡を受け、同人が同日控訴人に対し内容証明郵便を以てその旨通知し、該通知が同月二二日控訴人に到達したことは、当事者間に争いがないから、控訴人は参加人に対し右金員を支払わなければならない。

六よつて、参加人の請求は全部正当であるから、これを認容すべく、参加により生じた訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。(浮田茂男 加藤竜雄 山本茂)

別紙、目録《省略》

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